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第十四話「アゲハの息子。そして、インテリ系リア充の脅威」




第十四話「アゲハの息子。そして、インテリ系リア充の脅威」(前編)






フェリーツェは独自に穴掘りエニグマなどを開発し、
数人の工員を使って
ストライク・フリーダムからかなり離れている、
人間も赤羊も入り乱れた貧民街「スピリット・オブ・ワンダー」の地下に
巨大な要塞を作った。

工事は地上に全く音を洩らさなかったし、
色々根回ししたので要塞の存在は外部に全然バレていない。

首都「ワンダリング・ハイ」へのテロ行為を行う手筈の
兵隊達は、少しずつ順次、この要塞に集まってくる。




ムスイ達はその地下要塞に辿りついて程無く、
フェリーツェに最下層にある巨大な体育室に呼び出された。

待ち合わせ時間まで待っていると、少し遅れて
ムスイが船の上で出会った大柄な剣士と黒髪天パーの男も
部屋に入ってきた。


「んま・・・イケメンじゃん」


アゲハが若い方の男を見て感想を述べていた。
ムスイは大柄な剣士の方を見て少し微笑んでみせたが、
男は「プイ」とすぐに目を反らした。


待ち合わせ時間から5分くらい遅れて、
部屋の真ん中のエレベーターが降りてきて、
その上にフェリーツェが乗っていた。

警護の者はおらず一人きり。

スカートの端を持って広げ、ペコリと人を馬鹿にしたようなお辞儀をしてみせた。

大柄な剣士が「フン」と鼻息を洩らす音が聞こえる。


「御免なさい・・・。お気づきになられたかもしれないけれど・・・」
「今のボクは実体ではなく、ホログラム映像・・・」
「本体は研究所におりますのよ・・・?」


「そりゃそうだ」


ムスイが言葉を返す。


フェリーツェはそれに微笑を返す。


「『愛とは何ぞや・・・?』・・・その答えは・・・」
「動物が自分達の子孫を生み、育てるのに十分な時間だけ」
「雌雄が互いを慈しみ合うように仕向ける為の」
「接着剤のようなモノですわ・・・」
「ソレに過ぎない・・・」

「全ての動物に備わった、種保存の為のシステム・・・」
「このシステムを仕掛けたのは『大自然』そのもの・・・」

「ただソレだけの低俗な感情なのに、ボクは・・・」
「その理解の為に・・・」
「己の才能と膨大な時間を費やして・・・」
「一体何を・・・」


「もしかしたらボクは本当に『出来損ないの天才』だったのかもしれませんわ・・・」
「いくら高い計算能力を持とうと・・・」
「『導入』から・・・。もしかしたら『導入』から間違っていたのかもしれないのだから・・・」


「『指向性』については・・・あなた達の方が上手かもしれない・・・」
「偶にそう思いますの」
「ソレでは意味がありませんわ・・・」


「・・・違いますわ」
「『色々な無駄な事をできる』程の・・・動物として破格なくらいの」
「脳の余裕。生活の余裕」

「そんな『暇』を得られた事が・・・」
「ボク達の一番の価値ですもの・・・」


ナナセがコクンと頷いた。


「たとえ迷いはあっても・・・」
「更なる自由度を求める・・・」
「自由が・・・それほど魅力的なモノではない事は・・・」
「ボク達はもう重々承知しているけれど・・・」


「それが『人』だから」


「ボクは何も間違ってない」
「『此処じゃない何処かに行きたい』・・・」
「そんな気持ちが無ければ、生き残れない・・・」


「ムスイ君。僕達は青春の真っ只中で犬死にする事になるかもしれないけど・・・」
「その意思を次代に繋ぐ・・・」

「別に『実の子孫』の中だけにじゃなく・・・」
「全ての赤羊の子供達の中に意思は生き続ける・・・」




「・・・ま、こんな感じの大義を掲げまして・・・」
「青春の熱きパトスを人間の都市にぶつけましょう」



「そんな感じでよろしいでしょうか?」



フェリーツェが言い終えると、ナナセがバランスを崩してずっこけかけた。
アゲハとムスイが下品に笑いだし、若い剣士が微笑している。



「・・・良いよ。俺だって一応子供を遺してきたし」

ムスイが笑いをこらえながら言う。



「そうだよ。ウチだって遺してきたよ」



アゲハがそう言い放つ。




「はっ?????!!!」




ナナセとムスイとプラトが同じ反応で驚く。

アゲハは指先を唇に当ててシレッとしている。
フェリーツェは気にせずフワフワ笑っている。



「うん・・・。さすが『意識を持てた』ボクの兵隊達・・・」
「どうぞ、最期まで・・・お付き合いいただけますように・・・」



それだけ言うと、フェリーツェは消えてしまった。


部屋に取り残された8人。


「おい、あーた!どういう事だよ!」


すぐにプラトがアゲハに問いただし始める。
ムスイはアゲハの問題はとりあえず置いといて、大柄な剣士の方を笑いながら見ている。

そしてマフラーを口からずらす。


「俺はビョウドウイン・ムスイ。アンタ達も今日から仲間だな」
「名前は何て言うの?」


大柄な剣士の眉間に皺が入る。

若い剣士が少し首を傾ける。


「俺はミナシタ・フミキって言います」
「ムスイさんですね。一目見た時から分かってました」

「何処かのテレビでは、あなた、『世界最強の赤羊』・・・だなんて紹介されてた・・・」
「俺はてんで大した事ないんですが・・・」

「一緒に戦えるようで・・・光栄です」


ムスイはウインクする。


「よろしくね?」
「・・・ところで、そっちの・・・」


「フン」


ムスイの言葉の途中で、大柄な剣士は鼻息を漏らして
ツカツカ歩いて部屋の外に出て行ってしまった。


フミキと名乗った男が苦笑いしている。


「・・・御免なさい。あの人は馴れ合いが嫌いなんです」
「別に戦う時に皆さんに迷惑をかける事は無い筈だから・・・」
「できるだけ悪く思わないであげてください」

「あなた達も赤羊なら・・・多かれ少なかれ、理解できますでしょう?」


「アハハ!」


フミキの弁明を聞いて、ムスイは明るく笑う。


「気にしないよ」
「難攻不落な城ほど・・・落とした時に嬉しいもんだろ?」


ムスイはフミキの肩をバシバシ叩く。
フミキは微笑を崩さない。



「君はそんなに若いのに、『赤羊の未来の為』とか思って、此処に来たの?」
「どうも、そういう事考えてそうな顔に見えないけど」



ムスイは喋りながら、フミキの顔を覗き込む。



「ええ。俺は単に、死に場所を求めて此処に来ました」
「ムスイさんが命張るような戦場でなら、俺が今、想像できる以上の・・・」
「ハイ・クオリティーな死に方ができるんじゃないかと思って・・・」



フミキの言葉を聞いていたナナセが、少し引いた顔を作った。


「さっきの人・・・、ミナシタ・ゼツさんは、単に、戦いたい人が『ワンダリング・ハイ』を守ってるから」
「此処に来たみたいです」
「・・・ちなみに俺達の他の水無田一族の相当数も、後から此処に来る予定です・・・」

「ゼツさんが戦いたがってるのは・・・」


「最強の盾・・・『イージス十将』の内の一人・・・」
「星街天風(ホシマチ・テンプウ)っていう歴戦の勇士です」


「他の奴らの相手を皆さんにやってもらって・・・」
「自分はテンプウと、できる限り1対1で戦いたい・・・」
「・・・って事らしいです」



ムスイは頷きながら笑っている。








『イージス十将』とは、首都「ワンダリング・ハイ」を守る
50000の赤羊の守備兵を統べる、十人の守備隊長達の事である。


その十人以外の赤羊には、人間側からのえげつない洗脳が施されており、
職務と生命維持に必要な行為以外、何もできないような人形となっている。

自由意思をほぼ剥奪されたような存在達である。
ソレは、彼らが万が一にでも造反を企てないように・・・という人間側の思惑からそうなっている。


しかし、十人の守備隊長には自由意思がある。
脳内の伝達物質から何から何まで人間側に調査され、
人間に対する絶対的な忠誠を示すと認められた強者達・・・が彼らなのである。

そして、彼らの脳波はそれぞれ何百体もの洗脳された赤羊に命令を発する。
「ワンダリング・ハイ」を攻略する為には、守備隊長達をどうにか押さえる事が重要となってくるわけだ。


守備隊長達に与えられる報酬の半分は、彼らが満足できるレベルの強さを持った一般の赤羊そのもの、である。
人間が見繕ってきた、そのような一般赤羊と戦う事で、彼らは戦闘欲求を満たす。

それらの戦いは全て世に公表されない為、守備隊長達の実力は未知数である。
しかし、彼らは元々、戦争ごっこで活躍していた勇士が多い為、
実際、彼らが守る首都『ワンダリング・ハイ』は『魔界で最も安全な人間の都市』と言われている。









「・・・そういう人なんだ・・・」


そう言うムスイの言葉を聞いて、フミキは微笑する。


「ええ。そんなに難しい人じゃないですよ?」
「じゃあ、用が終わったんなら、俺も部屋に戻ります」


「ん」


フミキは少し手を上げて、部屋を後にした。
ソレをニヤニヤ見ているムスイ。


プラトはまだアゲハに対して質問を浴びせ続けているようだ。
















第十四話「アゲハの息子。そして、インテリ系リア充の脅威」(中編)







「あーた!あーたの子供って何の事だよ!」
「説明しろよ!」


その日の夕食の席でも、プラトは、まだアゲハを問い質していた。
これまた広い地下の食堂に十数人もの赤羊が集まって行儀よく食事を摂っている。

プラト・ムスイ・アゲハ・ナナセの他にゼツとムスイも来ている。

ゼツは意外にも、大変行儀正しくステーキをナイフとフォークで食べ続けている。
赤羊のエネルギーは食物から摂取されるわけではないのだが、
おそらくゼツはステーキの味を楽しんでいるのだと思われる。

ゼツとムスイが食堂に現れた時、意外な顔をしていた4人を見て、
フミキがムスイに耳打ちしてきた。


「内緒ですけど、本当はゼツさんはムスイさんに興味があるんですよ」
「強い人なら、大抵、興味持ちますから」
「俺がソレとなく言い続けてたら、重い腰を上げて連いてきました」
「・・・俺自身は、皆さんの話が聞きたくて、来てみたんですけど・・・」


ムスイはソレを聞いて、表情を変えないように注意しながら、
ゼツに見えないように、フミキに向かって親指を立てた。


ゼツは表面上はそんな二人のやり取りに気付いたような雰囲気を醸しださない。



「あーた!もう、ぶん殴るよ!」


少しも食事に取りかかろうとしないプラトは本当にアゲハに殴りかからんばかりの剣幕である。
アゲハはついにナプキンで口を上品に拭いて、一息ついた。



「人間のオーナーとの間にね、一人、子を設けたのよ」
「別に切羽詰まったわけじゃないよ」
「ソレが人として、真っ当な勤めだと思ってたからね」


微笑を交えてアゲハが語りだす。
プラトは顔に青筋を浮かべ始めた。



「人間のオーナー・・・だと・・・?」
「巫山戯るなよ!見損なったぞ!」
「バカァ!」


「具体的に何処が馬鹿なんだよ・・・」



怒りに身を任せるプラトに対して、ムスイが突っ込んだ。



「・・・ソレが良いか悪いかは、アゲハさんの判断が重要だと思いますけど・・・」
「よく、金持ちの人間のオーナーなんかと信頼関係が築けましたね」
「・・・でもアゲハさんなら或いは・・・」
「アゲハさんの器量が成せる事か・・・」
「・・・でも、なんでそんな危険・・・ってゆーか、エキセントリックな事したのかは分らないけど」



ナナセが感想を言う。
アゲハは目を閉じたまま、また話しだす。



「ウチがその辺の雑多な赤羊に興味無いのは知ってるよね?」
「・・・せめてムスイたんくらいには・・・頭をカルティベイトされてないと、お話にならないわ」



「いやァ・・・」

ゴン!

褒められてニヤけながら後ろ頭を押さえるムスイの頭頂部にプラトが拳骨の制裁を加える。




「でもムスイたんにはジュンちゃんが居るしね」
「ナナセたんは不能だし・・・」


それを聞いたナナセのリアクションは、眉間をピクリと動かすだけに留まった。



「少しでも尊敬できる対象が、人間の金持ちの中にしか居なかったんだよね」
「恋愛って、お互いに少しでも尊敬し合えなきゃ、始まらないじゃん」


「ウチらは愛し合ってた」
「ただソレだけだ」


プラトは怒り顔を困惑顔に変える。



「・・・むぅ・・・。そういえば『そう』か・・・」
「アゲハは凡百の流れに身を委ねた赤羊達を好きになれないんだったね・・・」

「・・・でも、だからって・・・」
「う・・・」
「アンタはソレで良いのかもしれないけど・・・」

「今後の子供の人生はどうなるんだ?」



アゲハが其処で初めて右目を細く開ける。



「・・・そう。ポイントは其処だよね」
「・・・ウチの『息子』は・・・完全な赤羊として産まれた」
「そうなる確率が上がるように仕向けたよ」


「そして・・・今後は『金持ちエリート人間の息子として、成功者の人生を歩んでもらう』」
「『人間のフリをしながら』ね」



「はァア???!!!」




プラトが大げさなリアクションを返す。
ムスイとナナセは難しい顔で硬直してしまった。ついにアゲハの発言の意味を解釈できなくなってしまったようだ。

ゼツは相変わらずゆっくりした動作でステーキを食べている。
規則的に右頬が膨らんだり凹んだりしている。
机の上にはステーキの皿がもう8皿くらい積まれている。
両の目は薄く瞑られているように見える。


フミキは机の上で組んだ手に顎を載せて、微笑している。



プラトの顔が若干青ざめかけた時、また彼女は話しだす。



「・・・どんだけ自己中なんだ?あーた」
「友達がアタイ達だったから良かったモノの・・・」
「普通なら絶交モノだろ」
「私刑(リンチ)されるかも・・・」


「なんかこう、昔からアンタは『人と違う事』をやりたがる性質を持ってて・・・」
「ソレは自身のとても高いスペックがさせているKYだって事は分ってたけど・・・」

「本当に子供の事、考えてんのか?ソレ・・・」
「どーせコレから、アンタ、しょーもない凡人に理解できない屁理屈こねるつもりなんだろ?」

「なんか反吐が出るぜ・・・」


そう言いながら、「子供に対して配慮に欠ける」という点では
自分には何も言えないのだ、という事を思い出して、プラトの胸はズキズキ痛んだ。


アゲハのろくでもなさがそのまま、自分とムスイのろくでもなさなのだ・・・
みたいな思考もあった。


ムスイも恐らく同じような事を考えているのだろう・・・という想像もできた。
ムスイは黙って、表情が動かない。



「・・・『豊かさ』って何だと思う?」
「ウチはその一つが・・・『選択肢の多さ』だと思うな」



アゲハは左目を瞑ったまま、喋りだす。



「・・・残念ながら、『死亡プログラム』を無くした所で、赤羊解放は完全に遂行されたとは言えない」
「まだ恒常的に戦わなきゃならない性質は変わらないよね」


「・・・でも、ウチって、超デキる女だからさぁ・・・」
「息子のスペックも超高い筈だって思ってるんだよね」


「今、甘い蜜吸って生きてんのは圧倒的に赤羊より人間じゃん」
「強い権力を持つ人間の息子として生きられれば・・・」
「どんな赤羊よりも『勝ち組』になれるじゃん」



「単純な話さ」
「例え、そんな生き方が肌に合わなくても・・・」


「野良の赤羊に好きな時に戻れば、皆と同じ条件になるだけだ」


「他の赤羊にはそんな生き方を選ぶ権利は無いわけで・・・」
「ウチの息子・・・」


「秀一(シュウイチ)は・・・」


「他の赤羊とは一線を画した豊かさを持ってると、言えないかな?」
「・・・ま、そんだけなんだけど・・・」



アゲハの話が終わって、プラトは気の抜けたような簡略顔になっていた。



「思ったより単純な話だったな」


「『アゲハさんの息子なら、デキる奴になる筈』っていう部分、確かにそうかもって思います」
「ちょっと違和感があるけど、僕が口出しできる程だとは思わないな」




ムスイとナナセが、それぞれ感想を言った。
プラトは今にも灰になりそうな表情で、少し俯いた後・・・




「コレが・・・傍から見たアタイ達の姿だよ・・・」
「ムスイ・・・」



とボソリと呟いた。


バランスを崩したムスイは


「そっちかよ!」


と、突拍子もない発言に反応を返した。






















第十四話「アゲハの息子。そして、インテリ系リア充の脅威」(後編)








アゲハの息子の父親が何者か判明したあたりで、トウメ夫妻がプラト達に近づいてきた。



「グーテン・アーベント・・・。皆様」



キノが人を馬鹿にしたように優雅な動作で手を振っている。
コウメイは無表情で開いている席に座った。
キノも後に続く。


プラトは彼らを見て、腕組みして一思案。
そして・・・



「ほらァ・・・」
「トウメ夫妻とかは、赤羊なのに知新のパークレンジャーやったりとか」
「好き勝手やってるじゃない」


「アンタの息子にも、そんな赤羊を目指させるべきだったんじゃないの?」
「もう一回言うけど、やっぱアタイ達の顔にツバ吐いてるみたいで腹立つわ」


「しかも、アンタ、そういう、アタイ達の気持ちとか、全然考えてないよね。悪気が無いのは分かってるけど」
「ソレがまたムッショ〜に・・・!」


「ねぇ、キノ嬢!コイツ、金持ち人間のしかも雇われてたオーナーとの間に子を設けたのよ!」
「識者として意見をいただけないでしょうか!」



キノは運んできた紅茶をすすりながら、プラトの方を一瞥。


「アゲハさんにはアゲハさんのお考えがあるのではないですか?」
「私達が意見を言うような事とは思えません」
「デリケートな問題ですし・・・」

「ただ一つ言うなら・・・」
「赤羊の群れを効率的に運営していくためにも、多様な価値観と能力は必要とされます」
「私達も今回はフェリーツェさんという異質な個性の力を借りなければ、どうにもならなかったでしょう?」

「遺伝子的にも、性格的にも、ライフスタイル的にも」
「人の多様性は人という種そのものの生き残りに有利に働きます」

「人はそれぞれなんです」
「そして、人がそれぞれである事は、人類にとってプラスに働くという事です」

「きっと、暁国に残ったアゲハさんのご子息は『人間として』その人生を歩まれるのでしょう?」
「一体、どんな人物に育つのでしょうか?私達とは一線を画した人物に育つに違いありません」

「その彼は、一般の赤羊がその身に宿していない『何か』を手にする事でしょう・・・」


「プラトさんのお気持ちもよく分かりますが・・・」
「アゲハさんらしいストラテジーだと私は思います」

「くす・・・」


キノがいつもとは違う口調で微笑を交えて話した。


(ちょ・・・。ソレはいくらなんでもアゲハさんの肩を持ち過ぎでは・・・?)
(アゲハさんと同じで自分達も先進的な事をしてるから、肩を持ちたくなるのかな・・・?)


若干納得がいかなかったナナセが、隅っこでそう思っていた。


「ふふふふ・・・」

「くすくす・・・」


同じように紅茶を手に持った状態でトウメ夫妻が不敵に笑っている。
ソレを見てプラトは少しだけムカついた。



ムカついた後、あまりにも二人が幸せそうなので、
今後起こる予定である命を投げ出さんばかりの戦いに二人が参加しようとしている事に関して
違和感を抱いた。

もっと仲良くする必要性を感じたので、プラトは疑問をそのまま口にしてみる事にした。




「・・・あのさ・・・」
「アンタ達って・・・」
「幸せそうじゃん・・・」


「子供とも・・・上手くいってて・・・」
「アタイ達と違って・・・」



そこでゼツの表情に微弱な変化があったのを、ムスイは見逃さなかった。



「・・・なんで・・・こんなに無理する必要があるんだ・・・?」
「自分達だけで幸せにやってりゃ良いんじゃねーの・・・?」



プラトは慎重に真面目な顔を装って話した。


キノとコウメイの顔が多少強張る。
少し二人が目配せしたのが他の者にも見てとれた。

そして、先にキノが口を開く。



「いえ・・・私達、とても苦労しました」
「私達が自由にやれたのは、環境的な要因によるモノではありません」
「私達の努力の結果です」


「つまり、私達の娘のシホも、私達と同じくらい自由に生きたいと欲すれば・・・」
「それ相応の犠牲を払わなければならない」


「シホの子供も・・・そのまた子供も・・・」
「何もしなければ同じ事です」


「つまり、私達の血筋の為に、一肌脱ごう・・・って事です」



プラトはキノの目をじっと見つめる。
その眼の奥に、幾許かの後ろめたさを感じ取ったが・・・
それを根拠に踏み込む事はできないような、微弱な直観であった。



「そうか」
「共感はできないけど、人それぞれなんだな」



プラトはとりあえず、そう言っておく事にした。



「フェリーツェさんもおっしゃってましたけど・・・」

「どんな生き物の役目も、一応、一つに決まっている。『自分達の子孫を生み、そして育てる事』だ」



前半はキノが喋り、後半はコウメイが突如として喋りだした。



「自分の子孫にとってプラスの事をしている限り、生物として何ら問題無い」
「生物として不合理な事をしている、とは言えない」


「前にも言ったが、シホはもう僕達が与えた愛について疑う事は無い」
「聡明な子だし、愛を信じるメリットについて、よくよく僕が話して聞かせた」


「シホは環境さえ整えば、何ら問題無く成長し、子孫を残してくれると僕は判断した」
「そこまで来たら、僕達がその次に出来る事は、シホがより佳く生きられるようにサポートする事だけだ」


「僕は君達と一緒に戦う事が、最善のサポートだと判断した」
「そして、コレが最後のサポートであると同時に最後の教育でもある」


「彼女が、僕達の望んだ通りの『志を保つ者』に育ってくれる事を期待している」


「それだけの事だ。想いは澄んでいる。君達の方が色々問題を残しているように見えるから・・・」
「心配してくれる必要は無い。悩みがあるなら、相談に乗る。遠慮無く言ってきてくれ」


コウメイは硬質な語調でツラツラ喋った。



「コレだけは言えるけど・・・家族って良い物ダヨ?」




キノは突然アニメ声に戻り、そう言いながらコウメイと一緒に机の上で
二人の片手と片手を使って、小さなハート・マークを形作った。

信じ難い事に、そんな事をしていてもコウメイは無表情を崩さない。
キノは少しだけ顔を赤らめている。




コレを見て、たいていの事は巫山戯て流すアゲハでさえ硬直してしまった。
プラトは呆気にとられて口からヨダレを垂らしている。

ノー・リクションなのはサラダを黙々と食べ始めたゼツだけで、
フミキは少しだけ珍しい物を見たような顔をしている。





「何とも気楽な連中じゃないか。アマーリア」
「いくら一枚岩になれない宿命を持った赤羊の群れとて・・・」
「胸の奥に渦巻く憎しみの多寡があまりにも違うようでは、とても好印象は抱けぬな」




隣の机で食事していた男女の男の方(シルクハットの紳士的な服装)が蔑視を向けて
トウメ夫妻含めたプラト達を貶す言葉を吐いた。



「そうねェ。あまり常軌を逸してる具合が激しいと、ココロのチンコが勃たないわ」



向かいの席に居る
頬杖を突いて怠そうにしているGOTH服の淑女がやる気の無い声色の返答をした。




一方、プラトはトウメ夫妻と自分達との間の「違い」みたいなモノを
どうにか自分の脳の中でだけでも受け容れようと必死に頭を働かせていた。











(続く)









十四話挿し絵

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