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第六話「戦争ごっこ体験を目指し」









第六話「戦争ごっこ体験を目指し」(前編)











プラトとムスイは結局、二週間もストライク・フリーダムに滞在した。

帰ってきて「もっと強くなるゾ!」と鼻息を荒げていたプラトを見て
ナナセやアゲハは怪訝な顔をする。



ムスイは二人にだけ、自分が赤羊という種全体の運命を揺るがす
大テロルに参加しようと思っている事を伝えた。


ソレを聞いたナナセとアゲハは複雑な表情を見せる。



「凄く大きな仕事ですね・・・。確かに、ムスイさんは好きそうだ・・・」



ナナセが言う。



「もちろん、お前らに参加しろ、なんて言わないゾ」



ムスイがウインクする。



「ウチはムスイ君の夢を応援したい」



アゲハは綺麗な発声でそう言った。
ナナセがあまりの反応の速さに驚いてビクッとする。

ムスイがアゲハと目線を合わせて約十秒静止する。
アゲハの視線は力が抜けているが真剣だ。



「ウチだって今の赤羊の現状に絶望している内の一人だよ」
「でも、できる範囲で自分の自由を広げようって・・・ベターを目指してやってるんだ」
「ウチらの仲間の子供も・・・その次の子らも・・・同じやるせなさを抱えて生きていく・・・なんて嫌だね」
「ウチにできる事ならやろう。戦っても良い」
「ソレもまた・・・ウチの・・・ウチらの自由じゃないか」



アゲハは言った。

ナナセは腕を組んで考え込んでいる。
ムスイはソレを見ていて、
ナナセは炎熱羊の未来とかそういう事ではなくて、
多分、ミズエの事を考えているのではないか、と想像した。

一分くらい経った後、
ナナセの視線がムスイの視線を捉える。




「僕も協力します。協力させてください。好機・・・ってヤツですよね。活かさなきゃ」




ナナセは言った。
二人とも、自分の戦闘力に絶大な信頼を持っているからこその同調であろう・・・という事は容易に理解できた。

ナナセは緊張が解けたのか、そこでガクッと肩を落とす。
そして、話し始めた。




「・・・子供の頃・・・一生懸命修行してた・・・。生き残る為に。生きる席を獲得する為に」
「ただ単に・・・『その他大勢から抜け出したい』って思いとか色々・・・考えてたかもしれない」
「でも・・・でも結局強くなっても・・・『ちょっと自由が増える』だけでしたね。大して楽にはならなかった」
「結局、僕らが手に入れたのは『破壊の力』であって・・・どの赤羊が偉い・・・とかそういうのも無い気がしてきた」
「皆、同格だ」



「コレが『どん詰まり』ってヤツなのかな・・・。今の赤羊としての・・・」
「『破壊』するならさ・・・なんか『巨悪』みたいな存在があって・・・ソイツらをぶっ倒す為に『破壊の力』を使いたいと思ってたけど・・・」
「生憎、リアル・ワールドにはそんなモノなくて・・・」
「むしろ・・・強いて言うなら・・・巨悪とは僕達、赤羊の事だ・・・みたいな現実があって・・・」



「なんだ・・・強くなっても、結局、僕らなんて要らなかったんじゃないか。世界にとって・・・。・・・みたいな絶望があって・・・」
「そして、ボク達が何も起こさなかったら、その現実はずっと変わらないんですよね」



「『考え方を変えれば辛い現実もやり過ごせる』って考えもあるけど」
「全てソレで行くのは、単なる『諦め』に似ていて・・・」
「ボクは・・・」



「ボクは・・・」




「この世界と、自分を、諦めたくないって思いました」

「強くなって自信がついて・・・得たモノが一つ・・・。・・・ソレは明日の世界に夢を描く勇気・・・!」




「ひゅうっ!」



アゲハが口笛を吹いた。
どうやら、真面目なナナセもほぼムスイに同調してくれたらしい。

ムスイは若干の申し訳なさを感じながら、頷いた。

二人には・・・そしてプラトには無くて・・・
自分は持っているモノが一つあった。




それは『歴史に名を残したい』という気持ち・・・。
邪悪な我執・・・。
とてもとても利己的な気持ち。





ナナセもアゲハも、ムスイの中にその気持ちがある事は理解していたと思う。
長い付き合いだから。
分かっている上で協力してくれる事を選んだ筈だ。



だけど、二人と自分の性質の違いは、
ムスイのココロに幾許かの不自然さを感じさせた。








しかし、やると決めたらからには、4人で計画的に実力と能力を高めていかなければと、
すぐに強く思い込んだ。






(夢を見る為には、その3倍くらい強く現実を見ていなければならない)






ムスイはそう思っていた。















第六話「戦争ごっこ体験を目指し」(中編)









さらにそこから月日が流れ、
ミズエは2歳半となった。

彼女は一人で日々のトレーニングをこなせるようになったし、
肉体労働のバイトすらやってのける。
フェリーツェの指導をコンピューターを介して受け、
自学自習を率先してやり続けたし、
赤羊としては申し分無い生活能力を既に備えたので、
「全く手がかからない」と言っても過言ではない状態であった。


ナナセ・アゲハ・ムスイ・プラトも
それを受け、
この頃はまだ体系だったビジネスとは全く言えない代物であった「戦争ごっこ」に率先して参加し、
実戦力を養ったり、
各自で過酷なトレーニングを重ねるようになり、
ミズエをかまう時間は減っていった。

比較的、過保護に彼女に接してしまうナナセやプラトも、
ムスイやアゲハに
「自立心を養ってあげる事の重要性」
「淑女として尊敬の念を持って接してあげなければならない事」などを説かれ、
一応納得した。

ナナセもプラトも、アゲハやムスイの理性的な判断には
全幅の信頼を寄せており、
言う事を全部聞いても「悪い事にはならない」と思っていた。
考え方の傾向に違いはあれど、お互いに尊敬し合っているのだ。





そして、テロルに参加し、成果を挙げる為に自分達の実力や実戦力に
まだまだ不安があったのも事実。

自分の才能と力を磨いて磨いて磨き抜いても
全然足りないという認識を4人ともが持っていた。
4人とも、この頃の赤羊としては奇跡的に真面目で向上心が高かった。

その頃の「戦争ごっこ」はビジネスとして確立されていないので、
「強ければ強いほど報酬が高くなる」といった雰囲気ではなく、
全体的に報酬は低かった。
・・・なので自ずと参加する赤羊達のモチベーションは大した事がない。



4人は「物凄く高い目標」を設定して、モチベーションの低い連中に揉まれて
己の技を磨いていった。


「その他大勢」から頭3つ4つ抜け出す事ができたのは必然であり、
その武勇が国中に知れ渡っていくのもまた必然。


その次は世界レベルの「戦争ごっこ」に招待されるようになるに至り、
その段階でも「高い目標」を見失う事なく
ストイックに努力し続けていた。

















そして、ある時、ムスイは
アジトの会議でこんな事を言いだすに至る。




「ミズエを戦争ごっこに連れて行ってみようと思うんだが。そろそろ」




皆、ポカンとして壇上のムスイを見ている。(会議室は昔の学校の教室のような感じだ)
ニコニコ顔を崩さないムスイ。
会議に出席するようになったミズエも小さい机の椅子に座ってキョトンとしている。





「・・・ちばけてんのか?」




プラトが数十秒後言葉を放つ。
ムスイは動揺しない。





「なんで可愛い娘を死地に赴かせるんだ。わざわざ」



「いや、だってさ」
「アゲハでも肉体労働や戦争ごっこで小銭稼いでるこんな世の中じゃ」
「ミズエだってそうなるに決まってるゾ?」
「そうせざるをえないに決まってるゾ?」
「頭脳面で英才教育するなら・・・他の面でも英才教育するゾ?」
「バランスのとれた人物にならないと、今までの全てが無駄になりかねない」



プラトは片眉を上げてムスイを睨む。



「大成しなくてもみーちゃんはみーちゃんだろ」
「死んだらあらゆる意味で可能性がゼロになるんだぞ」
「それにそんな問題でもないよ!」
「まるでアタイ達が『運が悪くて死んでしまっても、それはそれでかまわない』ってみーちゃんに言ってるみたいじゃないか」
「アタイはみーちゃんが大事なんだ!」


プラトの言葉を聞いていたアゲハが手を上げる。



「特別扱いのし過ぎは子供の為にならないって感じかもよ?」
「ジュンちゃんは、自分がみなしごだったからって・・・」
「親に優しくされたくても全然願いが叶わなかったからって・・・」
「『よし!自分が優しくされなかった分、ミズエちゃんにたくさん優しくしてやろう!』」
「『ソレで過去の自分の満たされなかった魂を補完してやろう!』」
「・・・って思ってるのはよく分かるよ。ジュンちゃん、素直だからね。ソレがあなたの良いト★コ★ロ♪」



「むぐっ!」


プラトはアゲハの言葉で赤くなる。
想定外の指摘だったらしい。


「ソレが、ある部分ではミズエちゃんのタメになるとも思うよ」
「・・・でーもね、全部がソレじゃあ駄目だなあ・・・」
「物事を成すにはいつだってクレバーな視点が必要って感じ?」
「・・・要するに全体を俯瞰する大局的視野に欠けると言いたい・・・」


じっと聞いていたナナセがアゲハの言葉に対して頷く。



「ソレは僕も分かりますよ」
「親が居ない僕達だって、ちゃんと大人になれたわけだから・・・」
「僕達が受けた扱いと、全く逆の扱いをミズエちゃんに与え続けても・・・」
「何か、上手くいかなくなるかもしれませんね」




「うんうん」


ムスイがナナセなりの言葉を聞いて満足げに頷く。





「狂ってるよ」





プラトが渋い顔をして呟いた。





「狂ってるのは残念ながら、現代(いま)の赤羊を取り巻く状況の方だよね〜・・・」





アゲハが笑わずに言った。
プラトはまた沈黙する。
ミズエも黙って聞いている。
言われている事はもちろんちゃんと理解できているようだ。


プラトはムスイの両の目を凝視する。
そのまま1分くらい経過した。



「あと2年」
「あと2年、アタイがみっちりしごく」
「そしたら、そこらの雑魚にも、まかり間違っても殺害されはしない地力はつく」
「そしたら戦争ごっこに連れていく」
「4歳・・・で連れて行ったって・・・十分に異例だ」



プラトは押し殺した口調でそう言った。






第六話「戦争ごっこ体験を目指し」(後編)













プラトの言葉を聞いてもムスイはニコニコ顔を崩さない。






「お前は・・・」
「ミズエの才能をその程度だと評価してるのか?」






ムスイは言った。
プラトは言葉に詰まる。
歯痒い顔でさらに沈黙を守り・・・





「戦争ごっこ、行ってみたいです」




ミズエの一言が沈黙を破った。
プラトがビックリした顔でミズエの方を振り返る。

ミズエは気負いも恐れも無い自然な表情をしている。
プラトは何故ミズエが涼しい顔をしているのか、一瞬、理解に苦しんだ。




プラトは俯いて、まだ釈然としない顔をしていた。
アゲハは穏やかな顔をしていたし、
ムスイもそうだった。
ナナセの顔には少しの戸惑いの色が見える。




「早く一人前になりたいんです。それに、大人の赤羊の事を・・・プラトさん達の事をもっと知りたいです」



ニコッと笑ってミズエは言った。
プラトは困り眉を作る。





「アゲハが『早く自立しろ』『淑女であれ』ってうるさいから・・・みーちゃん、染められちゃって・・・」


「・・・馬鹿だな。本当にミズエちゃんの事、見誤ってるよ」




嘲るような顔でアゲハがプラトに言葉を返す。



「ミズエちゃんはうちらの言葉を自分なりに理解して、納得して、自分の中に取り入れてるよ」
「『自分で考えてる』って事だ」
「うちが一番強く言ってるのも『自分で考える事の重要性』だ」
「ジュンちゃんは、ミズエちゃんが、ただの、うちらの言う事を素直に聞く良い娘・・・なんかじゃないって事を知らなきゃらならない」
「もっと一個の赤羊として尊敬してやらなきゃならない」

「この中で、一番、ミズエちゃんの事舐めてるのは・・・認めてないのは・・・あなただよ。ジュンちゃん」




アゲハの言葉を聞いて、プラトは寂しそうな顔をした後、ナナセを見やる。
彼も少し不安そうな顔をしていた。




「ミズエちゃん・・・」




ナナセは何か言おうとして、途中で止めた。
ムスイは細目を開けて、それを見ている。

少し下を向いた後、また前を向いたナナセは





「君の意思なら、大事にする」
「でも無茶しないでくれよ」

「僕は君を守るけど・・・『大丈夫』なんて言えないや」




と、ミズエに向けてゆっくり言った。

プラトはボーッとした顔でミズエを見やる。
(あぁ、そうか。意思を尊重してやらなきゃ駄目なんだ)
とその時はもう思っていたが、

その時は、この世の理不尽について思いを巡らせていた。
自分が酷い目にあってもどうという事はなかったが、
ミズエが酷い目にあうと思うと、
どうしようもなく不安定な気持ちになった。


「自分とは違う赤羊になってほしい」と思っていたミズエが、
結局、大して違うモノにはならないような気がして、
いつもより余計に「自分の限界」が感じられたような、そんな気持ちだった。




(フェリーツェの考えた作戦を成功させられれば、少しは雲の切れ目に青い空を見られるようになるのかな・・・?
 次の世代の赤羊の事なんて考えても、イマイチ現実感(リアリティー)が感じられないけど・・・
 この目で見てキモチを少しは知ってる、みーちゃんのタメにはなるのかな・・・少しは・・・)


そんな軽い思考があって、
その後、
(多分、自分はそう遠くない未来に死ぬだろう)っていう未来も見えて、
ミズエがある程度は一人で生きていかなければならない未来も見えて、
自分達に守られながら戦争ごっこに参加するくらいの冒険は
むしろ此処でやっておいた方が良いという考えが過り、



(なんだ。ムスイはけっこう当たり前の事を言ってるのかも)



という考えに至り、
(ああ、そっか)とストンと納得してしまった。



「ただし、少し無茶する代わりに俺達で全力でフォローしようと思う」
「ミズエを守りながら育てながら戦うんだ」
「俺達にはミズエ以上の覚悟が必要って事だゾ?」
「実力気力共に、いくらあっても足りないくらい大変な筈だ」
「気を緩めちゃ駄目だゾ?」



ムスイは、プラトが落ち着いたのを見てそう言った。
ミズエは少し笑っていたし、
ナナセはやる気を顔に滲ませていた。


プラトは、



(人の運命に関わるって事は、色々考えさせられるものだ。そして難しい。
 赤羊は人の気持ちを理解する事が難しい種族だから、
 なかば『上手い人との関わり方』を身につけるという事は諦めていたけど、
 いくら人と関わるのが苦手でも、
 全くそういう事に関する努力をしない事は世界が許してくれないのだ)



とかなんとか思っていた。












その後、半年後の、皆予定を空けて一緒に出る戦争ごっこを
ミズエの初舞台として定め、
プラトとナナセが中心にミズエを鬼のように鍛える活動が始まった。


フェリーツェに届けてもらった
彼ら用に完全にチューンナップしてもらった
最高級エニグマも使い心地最高である。





プラトの使うエニグマは「天帝妖狐」と「魔界総番長」。
ムスイの使うエニグマは「邪宗門」。
ナナセの使うエニグマは「サウダージ」。
アゲハの使うエニグマは「アテニア」。

ミズエの使うエニグマは「爆音夢花火」と「深夜特急」・・・という名前だ。





炎に焼かれ、岩に潰され、
自立へ向けて、
ミズエの厳しい修行の日々は続いていく。






他の四人にとっても、ミズエの純粋な命の輝きは
見ていて気持ちの良いもので、癒されるものであり、
人生の救いである事は間違いなかったのである。






(続く)









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