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第十一話「プラトとムスイの息子」






第十一話「プラトとムスイの息子」(前編)










時はいくらか巻き戻り、
ミズエが4歳で、ナナミが産まれる少し前の時の事。




ミズエも、急に聞いてビックリしたのであるが、
暁国の病院でムスイとプラトの間に息子が生まれたので、
二人は結婚する事にしたのであるという。


ミズエも、ミズエが二人に出会うより以前から
二人が付き合っていた事は知っていたが、
二人とも忙しく働いていて、ミズエを育てている最中に
子供を作ってしまったという事実にかなり面食らった。


「ミズエはもう『娘』ではなく『後輩』と言える程度にはたくましくなった」と
認めてくれているからこそなのだ・・・という側面もあるだろうので、
その点ではとても嬉しかった。

しかし、それは同時にムスイとプラトの『娘』でいられる季節が
有無をいわさず過ぎ去ってしまう事も意味し、
ミズエは心許なさと寂しさを感じずにはいられなかった。











「結婚」と言っても
プラトとムスイは正式な結婚式をあげる事を「めんどくさい」と言い、好まず、
仲間内でそういう誓いを立てるだけで済ませることにした。


プラトは

「あー!でもね・・・でもね!仲人はみーちゃんにやってもらいたい!絶対!」

と、ただ一つだけ条件をつけた。


それを承諾したミズエは、実際の「結婚式」という名の、アジトでの宴会で
ガーデンズの「約束の場所へ」を可愛らしく歌って、皆を盛り上げさせた。


「あーん!もう、みーちゃん、一家に一台で手放せなーい!」
「自慢の娘よ!むっちゅぅー!」


そんな事を言って抱擁と接吻を迫る、酔いの回ったプラトに笑みを返しながら、
ミズエは複雑な心境を抱えていた。




(一家に一台って・・・手放すつもりなのに・・・)




とかそんな感じに。


プラトが他の所に行った後にムスイがやって来て、
ミズエの肩にポンと手を置いて、


「御免なぁ。ガサツな嫁で」


と謝っていた。
ムスイはさらに続ける。



「アイツは間違いなく無神経な奴だけど、お前の事を愛してるのはホントなんだぜ」
「ずっと一緒にお前と暮らしたいと思ってるアイツも・・・アイツの中に居るから、ああ言うんだ」


ミズエはコクンと頷く。


「こういうのは、お前に対しての『愛の押しつけ』だろうか・・・?」
「正直言って、親と関わらないで生きてきた俺達・・・俺には・・・」
「その辺のやり方がよく分からなかったんだ」


罰の悪そうな顔をするムスイをミズエはじっと見つめる。
ミズエは眉間に皺を寄せてしばらく考えた後、こう言った。



「・・・アタイは、生まれてきて良かったって・・・もう、思えるんです」
「アタイを生かしてくれたのは、アジトの皆・・・」
「だから、皆に感謝してて、皆が大好きなのは当たり前のことで・・・」

「・・・」
「・・・」
「押しつけかどうかなんて、どうでも良いよ・・・」
「・・・それで、もう・・・」

「もう・・・」
「十分です」
「アタイは飛べますよ。もう」
「巣立てます」


ミズエはいつもよりも少し大人びた表情を作る。
その目がフルフル揺れているのを見て、
ムスイは微笑まずにはいられなかった。


「・・・ひでぇよなぁ・・・」
「こんな可愛い娘に、こんな無理したいじらしい台詞を吐かせるなんて」
「プラトも、俺も、この世界も・・・」
「ちっとも『標準モード』じゃないとしか思えないね」


ムスイは屈み込んで目の高さをミズエと合わせる。



「・・・ミズエがもっと『呑気』に暮らせるような世の中になったら良いと思うよ」
「女が呑気に日々を暮らす為に、男が汗水垂らしてアクセク働く・・・というのが正しい人の世の在り方なわけで・・・」
「そういう世界には俺もアイツも生きられなかったな」
「・・・」
「せめて、ミズエだけでも・・・」
「・・・あ、一応言っとくけど、ミズエが腐っても堕落しないような出来の良い娘だから、こんな事言うんだゾ?」



ムスイはミズエの頭を撫でながら話す。





「ムスイさんは、死と隣り合わせの今の赤羊を取り巻く状況を変えるために、行ってしまわれるんですね・・・」



「違う」




ミズエの言葉をムスイはピシャッと否定した。




「プラトは『そう』だよ」
「でも俺は違う」
「俺は『歴史に名を残したい』んだよね」




目を細めて笑ってムスイは続ける。




「ただ単に『とびっきり強い赤羊』なだけだったら、皆にすぐ忘れられてしまうゾ?」
「俺はね、社会科の教科書に載るような人物になりたいんだ」
「先陣切って首都ワンダリング・ハイの最下層に到達したら・・・」
「恐らく、俺の名は魔界の歴史に深く刻み込まれる」

「・・・まぁ、えらく単純化しちまったけど・・・嘘じゃない」
「俺を突き動かす、最も激しい欲求は・・・」
「『功名心』・・・だゾ?」



ミズエは、それを聞いて、目を丸くして、ただ漠然と驚いていた。



「『自分の名前』の為に・・・命を懸けるって事ですか・・・?」


「そうだ」



ムスイは悪びらない顔でウインクする。



「作戦に参加するだけで、都市を守る守備隊はもちろん、都市の人間すら殺しちまうかもしれない・・・」
「殺さなくても、神罰がくだる程の迷惑行為だ」

「そういう事をする俺は・・・少なくとも・・・『悪い奴』に間違いない」

「・・・何が『悪い』とか、よく分かんないけどさ・・・」
「『俺が!俺が!』って自分の欲求を満たす為に行う行為全般は、少なからず『悪い事』みたいなもんだよ」
「全部ね」
「本当は物事って、全部白と黒で分けられるもんじゃなくて、全部が灰色だから」


「でも、俺は『悪い事』をやって、果ててみようと思うんだ。たった一度の人生だもの」
「軽蔑してくれたり、此処で俺を止めにかかってきてくれても良いゾ?」

「俺は『自分の俗悪さ』『自分の器の小ささ』について半ば諦めてる、『悪者』だから」



ミズエはムスイの意外な言葉に面食らって、首をフルフル振るだけで精一杯だった。
首を少し傾けて、ムスイは続ける。



「自分の事を『器が小さい』と思ってる男が・・・『歴史に名を残すような大事をやろうとしている』また『できると思っている』事・・・」
「不思議に思ってるんじゃないか?奇妙に思ってるんじゃないか?」

「・・・」
「・・・なぁに・・・俺の考えでは、全然不思議じゃない」

「俺の考えではな・・・この世で一番『器が大きい』人々とは・・・『現世でサラリーマンやって現実と戦っているお父さん達』だ」
「『普通である事を受け入れ』『自分は偉業を成し遂げられないと理解した上で』それでも・・・」
「妻と子供を守る為に・・・その身を削って働くお父さん達・・・」
「・・・そういう人々だ」

「・・・こういう考えに則ると・・・犯罪行為に走ってまで『俺が俺が!』って名前を残そうとしてる俺とか・・・」
「マジで『器が小さい』って事になるだろ・・・?そういう事だ」

「俺はサラリーマンを・・・特に現世の日本のサラリーマンを尊敬してるんだ」
「願わくばミズエも、彼らのような気高い魂を持った女性になってほしい」

「そして、もちろん水無瀬(ミナセ)も・・・」
「あわよくば実際に現世の住人になれたら・・・。まぁ無理だけど」

「・・・まぁ、要するにね。『村人A』を馬鹿にする奴はアホだって話だよ」
「はっはっは」




ムスイがフワフワした持論を展開するのを面白く聞いていたミズエは、つられて「うふふ」と笑ってしまった。
自分の事を『悪人だ』『器が小さい』と言うムスイであったが、
ミズエの中で彼を蔑む気持ちは沸いてこず、

「自分の中にもそういう気持ち、無い事はないなぁ」とか「『男』ってこうなんだ・・・」とか

そういう事を思っていた。




そして、しばらく経って、聞き慣れない単語を聞いた事に気づく。




「・・・あ・・・ミナセって・・・もしかして・・・」



口に手をやってミズエが目を丸くする。
ムスイは、少し後ろめたそうな顔で、ニヤッと笑った。












第十一話「プラトとムスイの息子」(中編)












「そうだよ」
「ミナセってのは・・・俺らの息子の名前・・・」
「『水の無い川の瀬』・・・と書く」







ミズエはムスイの言葉を聞いても、すぐに反応を返せなかった。

名前が与えられた事で、自分の座っている椅子を脅かす存在をリアルに感じられるようになり、
不安定になる気持ちも、ミズエの中に在り、
そしてミズエの意識は、彼女のココロに「落ち着け。動じるな」と諭し続けるのであった。



そして、少ししてからミズエは言葉を返す。



「風情のある・・・素敵な名前ですね・・・」
「『水の無い川』・・・?」
「『水』って・・・つまり何だろう?」


「・・・」
「本来、川にあって当然のモノ」
「『水』が流れる事によって・・・川は完成する」



ミズエは冷静さを取り戻して、色々考えを巡らせる。



「人は産まれたまんまじゃ・・・皆、未完成・・・って事ですか?」
「『川』は人の生・・・。何処かの段階で流すべき『水』を手に入れられる・・・」



電波化していくミズエの言葉に対して、ムスイはニッコリ微笑む。



「そんな感じだよ。ミズエは発想が自由で気持ち良いね」
「・・・仲良くしてやってくれよ」
「『水の無い川野郎』と・・・」


「え・・・」



ミズエの心臓が大きく脈打つ。
・・・自分とミナセという少年の関わり方の「理想的な在り方」「在るべき在り方」について
やっと合点がいった感じであった。


ムスイとプラトが何を考えているのかはよく分からないが、
とにかく二人は、産まれてきたばかりの息子を残して、命を懸けに行こうとしているのだ。


ムスイはその理由を「歴史に名を残したいから」と言っていた。つまり、自分の為だ。
「ミズエを育ててくれたムスイ」を度外視してもしなくても、
「この人は少し異常だ」という認識をミズエは頭によぎらせずには居られなかった。


ムスイは少しミズエの目を見つめた後、こう言う。



「・・・」
「・・・『水』は既にお前の中に在るはずだ」
「お前が受け取ったモノも、お前の内から湧き出るモノも含めて」


「・・・身勝手だろう・・・?」
「『大人って皆こんなもんだよ』・・・なんて言って逃げる気は無い」
「俺の尊敬する『現世の日本のサラリーマン』は、基本的に、子供をいっぱしに育てる事くらい、やってのけるからな」


「俺が『子供』だからだ。『大人』になれなかったからだ」
「ある意味で俺は『失敗作』なんだ」
「だから『普通』に事を成し遂げる事ができない・・・」
「『正統な手続きを経る』ってやっぱ大事だよ」


「・・・でもって、お前もミナセも、大人になる為の『正統な手続き』なんてモノは到底、経られそうにないけど・・・」
「俺の願いとしては・・・」


「俺より真っ当な赤羊になってほしい。お前もミナセも。どっちも・・・」
「二人で力を合わせて、二人とも『大人』になってくれ」
「ミナセに『水』を分け与えて、ミナセを『水』に導いてくれ」


「俺の勝手な考えだが、そうする事はミズエ・・・お前にとってもプラスだと思う」
「ミナセに『水』を注ぐ事で、お前自身も『完成』に近づく事ができるだろう・・・」
「この考えは、俺がお前を育ててみての実感に基づいている」





ムスイが何を言わんとしているのか、だんだんミズエにも見えてきた。
自分達の息子を、良い方向に導いてほしい、と言っているのだ。




「・・・」
「ミナセ君は、もう産まれているんですよね・・・?」
「どうして、会いに行かないんですか・・・?」



「ん、あー。それは単に技術的な問題でさ」
「フェリーツェの総指揮で、フェリーツェと懇意だった暁国の医師が実働でさ・・・」
「ちょっと特殊な性質を付加した子に生んでもらったんだ」

「体を滅茶苦茶に崩されても死なない・・・絶対生存羊(リビング・デッド)ってんだ」
「そんな妙ちくりんな身体だから、その身体は最初の3年だけ崩れやすくなってるんだ」
「崩れたら再生しないくらい不安定だ」
「精神的に揺さぶりをかけるのも、とても危険だから・・・」
「会わない事にした」
「フェリーツェも『それもアリだ』って言ってくれてる・・・」




そのムスイの説明を聞いても、ミズエはにわかには納得できなかった。



「・・・その凄い再生能力を身につけさせる事の方が・・・最後の数年、育ててあげることより重要だとかんがえてるんですか・・・?」
「それに、『会う』という選択の方が『会わない』という選択よりも、精神を揺さぶってしまうと考えてるんですか・・・?」
「『逆』の可能性の方が高い気がするけどなぁ・・・」



ミズエは上目遣いでムスイを見る。


「本当は、上手い言い訳を思いついたから、喜んで逃げただけで・・・」
「本当の本当は・・・」
「関わり方が分からない・・・上手く接してあげられる自信が無いだけなんじゃないですか?」
「プラトさんもムスイさんも・・・」


ムスイは罰が悪そうに笑う。


「・・・」
「やっぱバレるよな」
「アゲハもすぐそう言ってきた。ミズエも女性だな」


「そうだよ」
「お前とは関われたのに・・・実の息子との接し方が分からない」
「自信があったら、多分会ってるだろうね」
「『長生きに特化した能力』を備えさせたのには、コダワリがあるけどな・・・。俺達の・・・いや俺なりの」


「あと『関われる可能性がゼロにならない為の作戦』は、実はあるんだけどな」
「まぁ、ソレはまた今度話す」


ミズエは半笑いでムスイを見ている。
正直、責める気持ちはあまり無かったが、二人の大人の「その行動」については
「ヘタレである」と判断せざるをえなかった。

彼女は、「正直、ムスイさんはもう少し格好良い大人って認識だったんだけどな」と、複雑な感情を抱えていた。


「・・・」
「・・・まーまーまー!」
「俺らに関する不満は、数日かけて熟成させて、次の機会にじっっっくり聞いてやるゾ?!」

「とにかく俺が今言いたいのは・・・」
「『俺らみたいな駄目な大人になるな!少なくともミズエは!』」
「・・・というのと」
「『ミナセと仲良くしてやってくれ!』」・・・という2点に尽きる!」

「悪い!宴会の席だった!今日の所はこれまでだ!ミズエ!」





そう言ってミズエの肩をポンポン叩いたムスイは、他の席に移動してしまった。

残されたミズエは考える。

「ムスイとプラトの、親としての不完全さ」・・・そんなモノはどうでも良かった。

二人には大恩があり、大好きな赤羊であるという事実は微塵も揺らがない。
他人の事を「あの人は完璧な人間だ!」と勝手に思い込む事も、ろくでもなくて非現実的だと思っていた。
「自分の子供との接し方が分からない」なんてのも、
ミズエが今まで見つめた、「不器用な」二人の人間像と少しもギャップが無い。
むしろ非常に赤羊的で、いくらか好意さえ抱くほどだ。

だからプラトとムスイを責めも軽蔑もしない。



問題は自分・・・ミズエ自身の今後の振る舞いである。

正直に白状して、ミズエは
「プラト達が今後3年間、ミナセという少年と接触しない」という事実を聞いて安堵していた。


自分のココロの整理のつき具合を考えるに、
あと3年も二人を独占できれば、十分、欲求を満たして満足できそうに思えたからである。

逆に言うと、「今は」本当はかまってほしいと存分に思っているわけで・・・
ミナセの存在はやっぱりプラト達を奪ってしまう驚異であった。


もちろん、そういう感情はミズエの中でも非常に原始的な部分であって、
意識としては、「子を遺したかった(想像)」という二人の気持ちは理解できたし、
その気持ちの成就の為なら、自分はもう二人にかまってもらう事を諦めるべきだと思っていた。


悪いのはプラト達二人に対してだけではない。
産まれたという「水無瀬」という少年に対しても・・・



自分の存在は疫病神の邪魔者であるに違いない・・・と、ミズエは思考する。


「悪いなぁ・・・。アタイ、こんなに甘えん坊さんで・・・」
とか、
ミズエはココロの中で遠くのミナセに謝罪する。




ぐちゃぐちゃの非健全な気持ちを抱えたまま・・・

ミズエはまだ見ぬ、プラトとムスイの息子へと思いを馳せる・・・。






















第十一話「プラトとムスイの息子」(後編)









ミズエは、ミナセという少年への罪悪感とか色々な感情を抱えたまま、
すくすくと活動を続け、ついに満5歳となった。



相変わらず、色んな戦争ごっこにアジトの人と一緒に参加していた。
4,5回はワールド・ワイドな戦争ごっこにも参加している。(規模の話であって、レベルでは無い)



先に述べたように、既に世界トップに迫るような実力を有する
ムスイ・プラト・ナナセ・アゲハの周りをいつもチョロチョロしているミズエの
認知度は、風説やネット情報に乗って、どんどん全世界に知れ渡り、
実力もかなりのモノである事もあって各国のメディアで特集を組まれるようにもなり、

やがて、有志の人間達の間で「ファン・クラブ」を結成されるまでになった。



「天才少女ミズエちゃんを愛でる会」がまず暁国とは反対側の先進国で発生し、
人間の富裕層達は

「ただし、戦争ごっこに出場する事を続ける事」という条件付きで
暁国のミズエ宛てに、大量の援助金を渡したいと申し出てきた。



元々、一人で生きていく実力をつける為に戦争ごっこに参加し続けていたミズエは
これを断る理由が無く、実際に大量の金銭を受け取る事になった。



その金額は第一波で既に一般の人間の生涯年収を軽く超えていた言う。



「滾ってるね。金持ちの人間は」
「異人種の幼女こそ信仰に値する・・・って気持ちなのかもね」
「分からなくもないって感じ?」
「ミズエちゃんは素直で綺麗な顔してるものね・・・」



アゲハはソレに対してそんな感想を述べた。



「お金は有り難くいただいても・・・あんまり首突っ込みすぎない方が良いと思うよ」
「濁った目で君の事を見てる人も居ると思うから・・・」




これはナナセの意見。




ミズエの今後の為の蓄えとして、支援金は貰い続けた方が良いという結論に皆で達した。
また、戦争ごっこに通いまくっている事を許してくれているミズエのオーナーの人間には
感謝しているので、内緒で何割か支援金を横流しする事にした。




「でも、ちゃんとファンクラブの人々を納得させるためには・・・それなりのお金の使い方をしないといけないよ」




そこまで決まった後で、アゲハがピシャッと言い放った。




「ちゃんと『ミズエちゃんの欲求を満たす為に』使ってあげないとセックスにならないじゃん」
「オナニーになっちゃう」



「アゲハさん。言いたい事は分かるけど、ミズエちゃんの前では言葉を選んでくさい」




アゲハの言葉に対してナナセが突っ込んだ
プラトは腕を組んで考えるポーズを作る。




「うーん!そりゃあ難問だ!」
「アタイ達は、もう既にフェリたんの完全バックアップを受けてる身じゃないか!」
「エニグマはアイツに作ってもらった方が絶対強いから・・・お金を使うアテにはならない・・・」
「チューンナップだってアイツに頼むべきだ」


「みーちゃんは未成年だからお酒もタバコもパチンコもやらないし・・・」
「高級品食べて満足するタイプでも無い・・・」
「趣味もお金がたくさんかかる事は無いし・・・」


「うああああ!アタイの無い頭じゃお金の使い道なんて考えられないよー!?」



プラトは勝手に頭をかきむしって暴走した。
本当に馬鹿みたいだった。




ナナセとアゲハとムスイも手を組んで無言で考えている。
数分後、自分で考えるのを諦めたナナセは顔を上げる。




「・・・例えば、ムスイさんだったら・・・ミズエちゃんと同じ状況になったら、どんなお金の使い方しますか?」


「うーん、そうね・・・」
「・・・」
「駄目だ。思いつかない」
「思えば趣味の無い、空虚な人生だったかもな・・・」




ムスイはお手上げのポーズ。




「あーらぁ。デキる男は無趣味でも良いのよォ♪」


「ところでウチだったらねぇ・・・」

「どっかの静かな山の上にさぁ」
「研究所を作りたいな」
「生化学の。ホルモンの研究がしたい」

「今の調子でお金が入ってくれば、2,3人は人を雇えそうだよね・・・」
「そこで、満を持して、『自分のやりたい研究』をやるの!」

「あぁん!想像するだけで、身悶えしちゃう!」
「ね、もしミズエちゃんの中で決まらなかったら、コレがミズエちゃんの希望だって事にして、ウチの研究所を・・・」




「却下です」



調子に乗るアゲハの言葉をナナセがピシャッと断ち切った。




「ミズエちゃんの気持ちも言葉も、ミズエちゃんのモノですんで」


「ただ、参考意見としては有り難く頂戴します」


「ミズエちゃん。アゲハ姐さんの場合のやり方を参考にして、君だったらどうするか考えてみてよ」



ナナセがミズエに対して柔らかに語りかける。
ミズエも腕を組んで長考に入る。

パッと自分の意見が出せるアゲハに感心したりもしながら、
自分の欲求を模索する。



そして・・・




「孤児院・・・」
「孤児院を建てたいです・・・」



ミズエは呟いた
聞いていた者達は唖然とする。




「なんだってぇ?」
「コジイン?」




プラトが困り眉で反応する。





「なんで孤児院?」
「それがミズエちゃんの希望なの」




アゲハもミズエの真意を掴めていない。
もじもじしながら、ミズエは次の言葉を紡ぎ出す。




「アタイがこの世に産まれて一番嬉しかった事は・・・」
「アジトの皆に出会えた事です」
「この世には捨てられる赤羊の子は一杯居るけど・・・」
「此処みたいな赤羊のアジトは全然無い・・・」
「子供を受け容れてくれるアジトなんてほとんどゼロだ・・・」


「だとしたら・・・」
「『アタイが嬉しかった事』に他の捨て子も出会ってもらう為には・・・」
「孤児院を建てれば良いんじゃないかなって・・・」




ミズエの言葉を聞いて、周りの者は皆しばらくフリーズしてしまった。
「それは厳密に言うとミズエ本人の欲求ではないのではないか?」と
思ったりもしたが・・・

そんな思いに至ったミズエという少女を賛美したいという気持ちが
何よりも上回った。


まず始めに、
プラトの両目から漫画みたいな量の涙がドバドバ溢れ出してきた。




「ブラボォォォォォォォ!!!」



プラトはミズエを力の限り抱き締める。



「アンタは利他の化身だ!」
「アタイには勿体ない程の、できた娘よぉぉぉ!」


おいおい泣きながらそんな事を叫んでいた。




「・・・うん。大丈夫。多分、全世界の金持ちのオタク達も、こういう反応を示す人が多いと思うよ」
「オタクは、幼女の綺麗なココロをこそ求めている筈だから(笑)」
「納得させられる」
「それにミズエちゃんの場合、『本気でそうしたい』って思ってるのがデカい」
「ウチがこの『美談』をさらに美しく脚色して、全世界のロリコン達の間に流布してやろうじゃないのぉ・・・!」
「任せんしゃァい!」


アゲハは冷静に分析して、ファンクラブに渡す文章の推敲に対して意欲を燃やした。


ムスイもナナセも、汗をかきながらヘラヘラ笑う事しかできなかったが、
「それで良い」と思えたのである。





かくして、
「将来の有望な赤羊戦士の育成」という名目で、
ミズエのお金を使っての孤児院の建設は、可及的速やかにとりかかられたのである。







最初は小さなモノであったが、支援金はどんどん入ってくるであろうので、
その都度、増築していく予定である。












(続く)










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